「あれ、私の酒がない。どこだ? どこだ? ない。冷蔵庫に入れておいたのに。」
と、喚きながら、台所をウロウロしている。そして、
「あの野郎に決まってる! あのくそじじい!」
と、言ったかと思うと、冷蔵庫から一本の酒を取り出し、「こうしてやる!」と、流しにドボドボと中の酒を捨て始めた。その酒は、言うまでもなく、トウヘンボクのものである。
それを見ていた大学一年の三男が、「もったいねえー。」と、言うと、この家の母親は、
「女ってのは、恐いんだ。気をつけろよ!」
と、言って、にんまり笑った。
そして、しばらく何やら台所でゴソゴソしていたかと思うと、この家の母親が、
「あ、あった。」
と、言い、探していた己の酒瓶を手にしている。どうやら、勘違いであったようである。
(終)

