「ホリエモンもあんなに堂々とテレビに出ながら、裏で悪いことしてたんだもんなあ。」
と、言っていた。
ホリエモン氏のことは我輩もよく耳にするゆえ、よく知っている。IT企業の寵児と騒がれていたホリエモン氏のライブドアが強制捜査された時は、猫族の間でも話題になったくらいである。
ふらふらしている長男も、父親と一緒になって、
「あいつにはいい薬だ。これで、少しは弱者の気持ちも分かるようになるだろう。」
など、と言っている。
「しかし、ホリエモンというのは、何なんだ? 確かにずる賢そうだが、証券取引法に違反することがそんなに悪いことだとも思ってなかったんじゃないか? 悪いことをしているという自覚があったら、あんなにテレビでへらへらしてないだろう、普通は。」
と、父親。
「善悪の付かない子供みたいに言うなよ。ばれないと思って隠れてやってたに決まってるだろ。」
と、長男。そして、大学生の次男に「お前はどうなんだ? 偉大な善治様の見解はさあ。」とにやにやしながら尋ねる。次男は、苛々しているようで、長男を無視している。次男は、最近、何故か機嫌が悪いのである。この家の家族の中でも、気兼ねなく次男に話し掛けられるのは、長男くらいである。
「おい、無視すんなよ。」
と、長男がやや怒って言う。次男はそれでも無言のままである。
「なんだよ、お前。お前は前、ホリエモンの発言を批判していたじゃねえか。」
と、今度は声をやや穏やかにして、長男が言う。すると、次男は、ちっ、と舌打ちしてから、
「堀江社長なんか、どうだっていいんだ! だけど、堀江社長の事件を聞いて盛んに話題にしている奴らは何なんだろうな!」
と、叫んだ。
「別に話題にしたっていいじゃねえか。トップニュースなんだから。」
と、長男が返す。
「トップニュース? ニュースなんて馬鹿馬鹿しい。堀江社長を逮捕して、それを報道して、それが正義だとでも思っているのか! 世間は、堀江社長の転落を、トップの座にいた堀江社長の転落を喜んでいるのさ! 世間は、人徳者の堕落を見て喜び、実力者の失敗を見て喜ぶんだ! 人の不幸を見て、自分の幸福を確認するわけだ、ちっ。そんな奴ら、みな逮捕だ! そんな奴らを逮捕することこそ正義なんだ! 」
と、次男が声を上げる。
「一つ、言っとくけどな、お前は堀江社長と言っているけど、もうあいつは社長じゃないぜ、ひひひ。」
と、長男が笑って言う。次男は怒って、手に持っていた本を床に投げつけて、自分の部屋へ行ってしまった。
我輩は、長男も短気だが、次男も短気なところがあると思った次第である。昨日も、次男は、一人で苛々していた。最近は父親のこともぐうたら母親のこともほとんど無視しているのである。
我輩の思うに、堀江氏は、現代の生んだ若者の象徴的な存在である。戦後、米国資本主義の影響を多分に受けた日本の社会は、昔のような古い道徳の教えよりも、欧米流の損得に基づいた教えを重んじていなかっただろうか。例えば、信念などという言葉を時代遅れの言葉として軽蔑し、逆に、勝利こそすべてだとか、損をしたら負けなどという考えをモダンで格好良いものだと思っていなかっただろうか。
そういう考えの支配するところでは、道徳的に悪いことでも勝てさえすればいい、といったマキャベリズムを是認する人間が生まれてもおかしくはないであろう。
とすれば、堀江氏を生んだのも、その幾らかは時代の責任なのである。そういう社会を作り上げた一世代前の大人が、堀江氏を非難するとしたら、それは自分の責任を度外視したものの見方なのである。
我が猫族の間では、刑事罰を認定する範囲は、非常に広範囲に及ぶ。罪を犯した者だけでなく、罪を犯すような環境を作り上げた者も、罰せられるのである。
それゆえ、もし堀江氏の事件を我が猫族の間で裁判したならば、恐らく、米国民主主義を主導した多くの人間が罰せられるのである。 (終)
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