試合が終った後、試合の解説者が、
「これで、日本は次のブラジルとの試合で勝たなければならなくなりました。」
と、いうようなことを言っていた。すると、この家の長女が、
「あはは。ブラジルに勝つなんて無理だよ。」
みたいなことを言う。我輩は、今にも暴れそうな長男を逆なでするようなこの長女の発言に、余計なことを言うなと思った。長男は、何も言わずテレビの画面を睨みつけている。何も言わぬのが、かえって突然爆発しそうで恐ろしい。すると、この家の長女が、
「でも、これである意味、日本もブラジルと戦えるんだから、いいんじゃない。」
と、また余計なことを言う。この家の母親も、
「そうだね。ブラジルとW杯で戦うなんて、普通、決勝とか行かないと無理なんだし。」
と、加わってくる。すると、長男が、
「あ? 何言ってんだ?」
と、今にも飛び掛りそうにして言う。
「何って何?」
と、長女。
「今、これである意味、ブラジルと戦えてよかったって言ったじゃねえか。これでって何だよ! どういう意味だ、言ってみろ!」
と、怒鳴る。
「これで、何て言ったっけ?」
と、長女。今しがた自分で言ったことをもう忘れている。それが、長男を余計苛立たせたのであろうか、
「今、言っただろ! その、「これで」の「これ」って何を指してんだよ、言ってみろ!」
と、叫ぶ。
「これで? 別に何も指してないよ、馬鹿じゃないの。」
と、長女。
「「これ」と言うからには「これ」は何かを指してんだろ!」
と、長男。
「むかつく!」
と、長女。
「どうせ、「これ」って言うのは、日本が負けたことを指してたんだろ!」
と、長男。そう言って、リモコンをテーブルに叩き付けた。リモコンは、パッチーンと音を立てて、中から電池が飛び散り、カーテンの方に吹っ飛んでいった。
これだから、我輩は、嫌なのである。人間には手のひらサイズでしかないリモコンでも、我輩には、意外とでかいのである。それが、高速で飛び散るのであるから、その危険性は言うまでもない。テポドンである。いや、テポドンは言いすぎであるが、バッドで殴られるくらいの衝撃はあろうかと思う。
因みに、ブラジル対日本の試合は、この家の長男は見ないであろう、と我輩は思っていた。なぜなら、その試合は朝の4時くらいから行われるということであったから、いつも起きるのが遅い長男は、起きてこないであろうと思ったからである。
が、四時ぴったりに起きてくるではないか。この家の父親と一緒になって、テレビを見ている次第である。この家の父親は、毎朝4時に起きるという変人であるから、驚きはしないとしても、この家の長男が起きているとは、思わなかった。
試合は、ブラジルに何点も取られて、さぞ怒っているだろうと思ったが、そうでもなかった。あまりに点を取られすぎて、怒る気にもなれなかったのであろうか。

