と、この家の母親が他の家族に言う。そして、
「だから、今度からお母さんも、ありがとう、感謝します、自分はついているって毎日言うことにした。」
と、続ける。
それを聞いていたこの家の父親は、「その通りだ。いい言葉を使うと人間は良くなるのだ。」と、うんうんと何度も頷く。もしそうなれば、この父親に対する母親の言葉も「何やってんの、ほんと馬鹿だねえ。」という呆れた呟きから「ありがとう、感謝します。」という感謝の言葉へと一変するわけであるから、喜ばしいことである。
「この家を支えているおれにも、たまには感謝しないとな。」
この家の父親が、感謝の言葉を期待してか、突如としてこんなこと言う。
「ああ、ありがたい、お父さんがちゃんと稼いでくれるから、みんな食べていけるんだよねえ。」
と、この家の母親。
「そうだ、おれが働かなかったら、みな飢え死になんだ。」
と、父親。満足そうに笑っている。
「ああ、ありがたい、ありがたい、感謝、感謝。」
と、母親。
が、我輩には、何だか怪しい宗教の信者のように思われた。 (終)

