昨日の夜、この家の家族は夕食を外で食べた。
回転寿司の店へ行くと言っていた。我輩、
寿司は知っているが、回転寿司とは何だろうと
甚だ疑問に思ったので、
こっそり車に忍び込んで付いて行った。
店に入ると、何やら
ベルトコンベアーのようなものの上に寿司が乗せられ、
ぐるぐる回っている。回転寿司とはこのことか、と合点がいった次第である。
この家の家族は、二手に分かれて
テーブルに座っている。一方のテーブルには、ぐうたら母親と長女、次女が座り、もう一方のテーブルには、父親、長男、次男、三男が座っている。どうやら性別で分かれたようである。別に、家族内においてまで、小学生の遠足のように男女別のグループを作らなくてもよい気もするが、
幼児の頃に学んだ男女別という分類が体中に染み込んでいるのであろう。
ぐうたら母親の方のテーブルには、色々の寿司が並んでいて、みなであれが旨いとか、これが旨いとか言いながら、旨そうに口に運んでいる。ぐうたら母親が次女に「そんなに醤油をつけないの。高血圧になるから。」などと注意している。
父親の方のテーブルには、ほとんど一種類の寿司ばかり並んでいる。「焼きトロサーモン、食う人?」と、長男が言うと、他の者が一斉に
うんうんと頷く。すると、長男は、「じゃあ、とりあえず6個くらい
注文するか」と言ってボタンを押す。それで、みなで「焼きトロサーモン、旨いな。」と言ってそればかり注文している。
見ていたら、我輩も少々味見してみたくなった。であるから、人間の少ない角の方へ移動して、流れてくる寿司を待ち構えた。すると、向こうから赤い魚の乗った寿司が我輩の所へ近づいてきた。遠くから傍観していた時はそうは感じなかったが、次第に接近してくる寿司は、結構なスピードであった。少なくともゆっくりと
むしゃむしゃと頂戴している暇はないだろう。それゆえ、我輩は、まず練習として、流れてきた寿司を舐めてみようと思った。最初から寿司を捕らえるのは難しいと感じたのである。
そんなことを考えていると、もうさっきの寿司は目の前まで来ていた。少々不意を付かれたが、我輩は、舌を出して
ぺろりと舐めた。
味は中々であった。舐めるだけでなく食ってしまえば良かった、と
頗る後悔した次第である。練習などと言って、最初から食おうと決めなかった我輩自身に腹が立った。
そんな反省と後悔の入り混じった気持ちで、我輩の舐めた寿司の行方を目で追っていると、不意に我輩のいた場所からやや離れた場所にいた中年の
サラリーマン風の人間が、その寿司を取って
ぺろりと食った。
「やられた。」と我輩は思ったのであるが、悔しがっている暇もなく、また向こうから寿司が流れてきた。今度は色の白い魚の乗った寿司である。
今度は、我輩は、その目的の寿司をじっと見つめながら待ち構えた。そして、目の前まで来た寿司に「
にゃっ」と勢いよくかぶりついた。が、捕らえることができたのは、寿司の上にのっていた白い魚だけであった。イカであろうか、中々噛み切ることができないが、味は中々なのである。寿司の米の部分まで捉えることはできなかったが、旨い魚を頂くことができたので、とりあえず半分は成功である。
米だけと成り果てた寿司は、
無情にも、そのまま向こうへ流れていった。我輩は、今度こそと思って寿司の流れてくるのを待ち構えていると、向こうから我輩の大好物であるウナギがやってくる。
我輩は居ても立ってもいられず、ウナギの寿司が来るや否や、ベルトコンベアーの上に飛び乗って、
むしゃむしゃと頂いた。ベルトコンベアーの上に乗った我輩の体は、他の寿司と一緒に回り始めたが、我輩はウナギを食えた幸福感と何もせずとも自分の体が動いているという楽しさから、ベルトコンベアーに乗って一周してみようと決めた。
我輩の体は
ずんずんと前へ行く。寿司と一緒に流れているというのは少々不快であるが、ここから見える景色や自動的に運ばれていく心地良さを総合すると、非常に愉快である。
中年のサラリーマン風の男子は、我輩の姿を見るなり、「
ぎゃあっ。」と驚いて、後ろに吹っ飛んだ。まさか、寿司と一緒に猫が並んでいようとは夢にも思わなかったのであろう。そう思うと、またしても非常に愉快であった。
我輩は、一周しようと思ったけれども、この家の家族のテーブルに差し掛かる前に飛び降りた。無論、この家族の前を通っても、恐らく
夢中で寿司を食っていて我輩の姿に気付かないか、我輩の姿を見ても自分の家の猫だとは気付かないであろうから、恐れる必要はない。しかし、この家の家族のテーブルを過ぎると、調理人らの方へ行ってしまうので、我輩はそれを恐れたのである。我輩の姿を見て「
おのれ、せっかく作った寿司が台無しになるじゃねえか!」と包丁を振りかざしてくる調理人もいないとも限らぬ。
我輩の聞くところによると、調理人は生き物は何でも調理すると言う。包丁裁きが得意などと言って、生き物を八つ裂きにして得意がっている連中である。
旨い魚を頂戴してことであるし、今日は満足であった。 (終)
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